週44時間特例の廃止議論とは|小規模飲食・小売店の備え

ニュース解説

小規模な飲食店や小売店の多くが利用してきた「週44時間特例(特例措置対象事業場)」。この制度を廃止し、すべての事業場を「週40時間」に統一する方向で議論が進んでいます。2026年通常国会への労働基準法改正案の提出は見送られましたが、いずれ実施される可能性が高い論点です。制度の仕組みと、対象となる小規模店が今から進めておきたい備えを整理します。

ニュースの要点:週44時間特例の廃止が検討されている

厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」が2025年(令和7年)1月に公表した報告書では、労働時間法制の見直し課題の一つとして、一部の業種・小規模事業場に認められている週44時間特例の廃止が挙げられました。将来的に、事業場の規模や業種にかかわらず法定労働時間を週40時間へそろえる方向性が示されています。

ただし、2025年12月の厚生労働大臣会見で、労働基準法改正案の2026年通常国会への提出は見送られることが明らかになりました。業種や規模による影響の差が大きく、丁寧な議論が必要というのが理由とされています。したがって現時点では「決定事項」ではなく、今後の国会審議の状況によって時期や内容が変わり得る点に注意が必要です。とはいえ廃止の方向性そのものは有力で、早めの準備が経営を左右します。

そもそも「週44時間特例」とは

労働基準法は、法定労働時間を原則「1日8時間・週40時間」と定めています。しかし労働基準法第40条と同法施行規則第25条の2にもとづき、特定の業種で常時使用する労働者が10人未満の事業場は、週の上限を44時間まで認められています。これが「特例措置対象事業場」です。届出は不要で、条件に当てはまれば自動的に適用されます。

対象となるのは、次の4分野に属する常時10人未満の事業場です。飲食店や小売店の多くが含まれる点が、今回の議論を店舗経営者にとって身近なものにしています。

分野主な業種の例
商業卸売業、小売業、理美容業、倉庫業など
映画・演劇業映画の映写、演劇、その他の興行
保健衛生業病院、診療所、社会福祉施設、浴場業など
接客娯楽業旅館、飲食店、ゴルフ場、遊園地など

自店が対象かどうかの確認ポイント

ポイントは「業種」と「常時10人未満」の二つです。従業員数はパート・アルバイトを含めた実際に働く人数で数えます。複数店舗がある場合は、原則として店舗(事業場)ごとに判断します。1店舗あたりのスタッフが10人未満の飲食店・小売店であれば、現在は週44時間まで所定労働時間を設定できていることになります。

廃止されると店舗運営はどう変わるか

特例が廃止され週40時間に統一されると、これまで法定内だった「週40時間超〜44時間まで」の労働が、法定時間外(残業)扱いになります。影響は大きく分けて三つです。

第一に、割増賃金の負担増です。特例のもとで週44時間まで働いてもらっていた場合、廃止後は週4時間分に対して2割5分以上の割増賃金(時間外手当)が新たに発生します。人件費が上振れする分、シフトの組み方を見直さなければ利益を圧迫します。

第二に、シフトの再設計が必要になります。週の所定労働時間が実質的に4時間短くなるため、同じ営業時間を回すには人員の配置や役割分担の見直しが避けられません。人手不足が続くなかで、これは現場に重い課題となります。

第三に、就業規則や労働条件通知書の整備です。所定労働時間を44時間前提で定めている場合は、40時間に合わせた改定が必要になります。

経営者が今から取るべき備え

1. 労働時間の実態を正確に把握する

まずは、現在スタッフが週何時間働いているかを勤怠データで確認します。週40時間を超えている人がどれだけいるかを見える化することが、影響額を試算する出発点です。紙のタイムカードで曖昧になっている場合は、この機会に勤怠管理を整えておくと安心です。

2. 週40時間を前提にシフトを組み替える

廃止が決まってから慌てるのではなく、今のうちから40時間を上限とするシフトを試験的に設計しておくと、移行がスムーズです。ピーク時間帯への人員集中や、短時間スタッフの活用でカバーできる部分を洗い出しておきましょう。

3. 業務効率化・省人化を進める

労働時間の上限が下がっても回る店にするには、一人あたりの生産性を高めることが本質的な対策です。セルフオーダーやモバイル決済、在庫管理の効率化など、少ない人数で運営できる仕組みづくりが有効です。設備投資には省力化投資補助金などの活用も検討できます。

4. 就業規則・労働条件を点検する

所定労働時間や割増賃金の規定を確認し、改正に備えた見直し案を社会保険労務士などの専門家と相談しておくと、施行時の混乱を避けられます。

まとめ

週44時間特例の廃止は、法案提出こそ先送りとなったものの、いずれ実施される可能性の高い論点です。対象となる小規模な飲食店・小売店にとっては、人件費とシフト運営の両面に直結します。「まだ決まっていないから」と後回しにせず、労働時間の把握と40時間前提の運営づくりを今から少しずつ進めておくことが、いざというときの余裕につながります。最新情報は厚生労働省の発表を随時確認しましょう。

(出典:厚生労働省「労働基準関係法制研究会 報告書」2025年1月/労働基準法第40条・労働基準法施行規則第25条の2/2025年12月 厚生労働大臣記者会見〈労働基準法改正案の通常国会提出見送り〉)

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