2026年(令和8年)度の地域別最低賃金は、全国加重平均で55円の引き上げが決まりました。飲食店や小売店など人手に頼る店舗にとって、賃上げは避けて通れない一方、その原資の確保は大きな悩みです。そこで注目したいのが、賃上げと設備投資をセットで支援する厚生労働省の「業務改善助成金」です。令和8年度は制度が大きく見直され、9月1日から申請受付が始まります。本記事では、ニュースの要点と店舗経営への影響、いま取るべき準備をわかりやすく解説します。
最低賃金は全国平均1,176円へ 業務改善助成金は9月1日受付開始
厚生労働省の中央最低賃金審議会は2026年7月28日、令和8年度の地域別最低賃金について、全国加重平均で55円引き上げ、現在の1,121円から1,176円とする目安を取りまとめました。引き上げ額の目安はランク別にAランク54円、B・Cランク各56円です。今後は8月中に各都道府県の審議会が地域ごとの改定額を審議し、10月頃に新しい最低賃金が発効する見通しです(出典:日本経済新聞 2026年7月28日)。
この賃上げ局面で、店舗の負担を和らげる制度が業務改善助成金です。従業員の時給を50円以上引き上げ、あわせて生産性を高める設備投資を行った中小企業・小規模事業者に対し、設備投資費用の一部(3/4〜4/5、上限30万〜600万円)を助成する仕組みで、令和8年度の申請受付は2026年9月1日にスタートします(出典:厚生労働省「令和8年度業務改善助成金のご案内」)。
背景:賃上げ圧力の高まりと制度の刷新
最低賃金は近年、全国で1,000円を超える水準まで上昇を続けています。人手不足が深刻な飲食・小売業では、時給の引き上げなしに人材を確保することが難しくなっており、賃上げは事実上避けられないコストになりつつあります。ただ、原資を売上や利益だけでまかなうのは容易ではありません。そこで国は、賃上げと省力化・生産性向上の設備投資を同時に進める事業者を支援する形で、業務改善助成金を用意しています。
令和8年度は、この制度が前年度から大きく見直されました。主な変更点は次のとおりです(出典:厚生労働省「令和8年度業務改善助成金のご案内」、業務改善助成金Q&A)。
- 申請受付の開始が9月1日に後ろ倒しされ、春〜夏(4〜8月)は原則として申請できない
- 申請の締切は「地域別最低賃金の発効日の前日」または「11月末日」のいずれか早い日
- 賃上げコースが従来の4コース(30円・45円・60円・90円)から3コース(50円・70円・90円)へ再編され、最低でも50円以上の引き上げが必要に
- 助成率を分ける基準が、事業場内最低賃金1,000円から1,050円に見直し
- 対象範囲が拡大し、事業場内最低賃金が令和8年度の地域別最低賃金を下回っていれば申請可能に(従来の「差額50円以内」という上限を撤廃)
- 賃上げの対象となる労働者は雇用保険の被保険者であることが必須に
- 賃金引き上げは交付申請より後に実施する必要があり、先に賃上げしてからの事後申請は不可
店舗運営への影響:対象が広がり、諦めていた店にもチャンス
10月に地域別最低賃金が発効すると、事業場内で最も低い時給がそれを下回る店舗は、賃金の引き上げを迫られます。労働集約型の飲食・小売業ほど影響は大きく、人件費の増加を利益でどう吸収するかが課題になります。
一方で令和8年度は対象範囲が広がった点が朗報です。これまでは「最低賃金より51円以上高く払っているため対象外」とされていた事業場も、地域別最低賃金を下回っていれば申請できるようになりました。過去に対象外で諦めた店舗も、改めて確認する価値があります。
対象となるのは、業種ごとの規模要件を満たす中小企業・小規模事業者です。飲食業はサービス業として扱われ、資本金5,000万円以下または従業員100人以下が目安、小売業は5,000万円以下または50人以下が目安となります。助成率は引き上げ前の事業場内最低賃金によって次のように決まります。
| 引き上げ前の事業場内最低賃金 | 助成率 |
|---|---|
| 1,050円未満 | 4/5(80%) |
| 1,050円以上 | 3/4(75%) |
助成の上限額は、申請するコース(50円・70円・90円)と、賃金を引き上げる労働者の人数の組み合わせで決まります。主な区分は以下のとおりです(カッコ内は事業場規模30人未満の場合)。
| 引き上げる人数 | 50円コース | 70円コース | 90円コース |
|---|---|---|---|
| 1人 | 30(40)万円 | 40(50)万円 | 90(100)万円 |
| 2〜3人 | 40(70)万円 | 50(100)万円 | 150(240)万円 |
| 4〜5人 | 70万円 | 130万円 | 270万円 |
| 6〜7人 | 90万円 | 180万円 | 360万円 |
| 8人以上 | 110万円 | 230万円 | 450万円 |
なお、事業主単位の年間上限は600万円です。最大600万円が適用されるのは、賃金水準や利益率で「特例事業者」と判断され、90円コースで10人以上の賃上げを行う場合に限られます。店舗にとって身近な設備では、POSレジや券売機、食洗機、業務用厨房機器などが助成対象になり得ます。一方、LED照明への交換やエアコンの設置といった、経費削減や職場環境改善のみを目的とした費用は対象外です。助成対象経費は税抜10万円以上が下限となります。
経営者が取るべき対策:9月受付に向けていま準備を
令和8年度は申請できる期間が短くなりやすいため、受付開始前の準備が成否を分けます。次の手順で進めておくと安心です。
- 自店の「事業場内最低賃金」(最も低い時給)を確認し、10月に発効する地域別最低賃金を下回るかどうかを把握する。
- 自分の都道府県の最低賃金発効日を確認し、締切(発効日の前日または11月末の早い方)から逆算してスケジュールを組む。発効が早い地域では申請可能期間が2か月未満になることもあります。
- 賃上げ計画(50円・70円・90円のいずれか)と、あわせて導入する省力化設備の計画を今のうちに具体化しておく。
- 賃金引き上げは交付申請より後、設備投資は交付決定より後に実施する。先に発注・納品・支払いをすると対象外になるため注意する。
- 賃上げの対象労働者が雇用保険の被保険者で、原則として雇い入れから6か月を経過しているかを確認する。
賃上げは「守り」のコストと捉えがちですが、業務改善助成金を使えば、省力化・生産性向上への「攻め」の投資と一体で進められます。人手不足のなかで人件費増を吸収するには、機器の導入による省人化が欠かせません。制度の詳細や不明点は、業務改善助成金コールセンター(0120-366-440、平日9:00〜17:00)や、事業所を管轄する都道府県労働局に相談できます。申請には期限や要件の確認が欠かせないため、早めの準備を心がけましょう。
※本記事は2026年8月4日時点の公表情報にもとづく解説です。要件やスケジュールは変更される場合があるため、申請前に必ず厚生労働省の最新の公募情報をご確認ください。
出典
- 厚生労働省「令和8年度業務改善助成金のご案内」(2026年)https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001693416.pdf
- 厚生労働省「業務改善助成金Q&A」https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001693407.pdf
- 日本経済新聞「最低賃金の全国平均1176円に 26年度目安、55円引き上げ」(2026年7月28日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2828Y0Y6A720C2000000/

